公開を目前に控えた劇場版 鬼滅の刃 無限城編(外崎春雄監督)が、韓国での前売り券販売数79万枚を突破し、予約率83%という驚異的な数字で全体の1位を記録した。これは、今後の興行成績を占う上で極めて大きな期待が寄せられていることの証明に他ならない。本作はなぜ、これほどまでに人々を惹きつけるのか。その魅力の根源は、作品が持つ少年漫画の王道への忠実さにある。
現代の潮流と友情・努力・勝利
かつて、日本の漫画雑誌 週刊少年ジャンプは友情・努力・勝利という三つのキーワードを作品作りの柱として掲げていた。しかし、現代の人気作品が必ずしもこの原則に沿っているわけではない。例えば、チェンソーマンでは友情よりも複雑な関係性の破綻が描かれ、進撃の巨人は爽快な勝利とは程遠い、むしろこの原則を覆すかのような悲劇的な結末を迎える。2000年代から2010年代にかけて世界の漫画・アニメ市場を牽引したONE PIECE、NARUTO -ナルト-、BLEACHといった大作でさえ、当初は努力型の主人公に見えたキャラクターが、実は特別な血筋や才能の持ち主であったという設定が明かされるなど、純粋な努力だけでは片付けられない物語が展開されてきた。これにより、一部のファンは一種の裏切りのような感情を抱いたことも事実だ。
鬼滅の刃が貫くシンプルさという強み
これに対し、鬼滅の刃は驚くほど純粋に友情・努力・勝利の法則を貫いている。物語の筋書きは極めて明快だ。人を喰らう存在「鬼」の始祖である鬼舞辻無惨と、彼によって生み出された鬼たち。そして、その鬼を滅殺するための組織「鬼殺隊」。主人公の竈門炭治郎は、鬼の襲撃によって家族を失い、唯一生き残った妹の禰豆子は鬼に変えられてしまう。炭治郎は禰豆子を人間に戻すため、そして全ての鬼を討ち滅ぼすために鬼殺隊の道を進む。その過程で仲間たちとの友情を深め、過酷な鍛錬という努力を重ね、強大な鬼との死闘の末に勝利を掴んでいく。
そこには、ONE PIECEや進撃の巨人のような広大で複雑な世界観や、NARUTO -ナルト-やHUNTER×HUNTERに見られるような緻密に計算された能力バトルは存在しない。鬼殺隊の剣士たちは、「呼吸」と呼ばれる技術で身体能力を極限まで高め、「日輪刀」という特別な武器で鬼を討つ。水の呼吸、雷の呼吸、炎の呼吸など、それぞれが独自の呼吸法を用いるが、それらは本質的には「いかに速く、そして強く剣を振るうか」という点に行き着く。この徹底したシンプルさが、かえって本作の成功要因となっているのだ。難解な設定や複雑な伏線を排し、物語の核となる友情・努力・勝利という純粋なエッセンスだけを抽出したこと。これこそが、アニメーション化された際に、その魅力を最大限に引き出す要因となった。
アニメーションで開花した無限の可能性
原作漫画の持つシンプルな構造と物語の余白は、アニメーション制作を手がけたufotableにとって、まさに映像表現のポテンシャルを最大限に発揮できる自由な空間となった。劇場版 鬼滅の刃 無限城編は、その長所が最も凝縮された作品と言える。
物語は、鬼でありながら太陽を克服した禰豆子の存在を知った鬼舞辻無惨が、彼女を捕らえ自らのものにしようと動き出すところから最終局面へと突入する。これまで裏で暗躍してきた無惨が表舞台に姿を現したことで、鬼殺隊は多くの犠牲を払いながらも彼を追い詰める。しかし、無惨は追い詰められた末に、全ての鬼殺隊員を自らの本拠地である異次元空間「無限城」へと引きずり込む。無限城は、物理法則を無視して無限に広がり、再構築され続ける空間であり、そこには最強の精鋭である「上弦の鬼」たちが待ち構えている。炭治郎をはじめとする鬼殺隊の柱たちは、この絶望的な要塞の中で、仲間たちとの絆を胸に最終決戦に挑む。
歴史的な興行記録への期待
韓国での前売り券販売数79万枚という数字は、アベンジャーズ/エンドゲーム(最終観客数1397万人)、アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー(同1123万人)、アナと雪の女王2(同1376万人)といったハリウッドの超大作に次ぐ、歴代5位の記録だ。このことからも、観客の期待がいかに大きいかがうかがえる。
参考までに、本作は日本では公開からわずか31日間で観客動員数1827万人、興行収入257億円を達成し、歴代興行収入ランキングで4位に躍り出るなど、数々の新記録を更新し続けている。圧倒的な前売り販売数が示す通り、本作が今後どのような歴史を刻んでいくのか、映画業界全体の熱い視線が注がれている。