フランスの首都パリでは、犬は生活の一部として欠かせない存在となっています。セーヌ川沿いを散歩する犬、カフェのテラスでくつろぐ犬、ジョギングする飼い主に寄り添う犬──街のいたるところで人と犬の共生が見られます。特に新たなトレンドとして注目されているのが、日本原産の柴犬です。
犬と共にあるパリの生活
フランスでは犬好きが多く、パリ市内だけでも約10万匹の犬が飼われているといわれています。2020年のロックダウン時には、犬の散歩が外出可能な数少ない理由のひとつとされ、多くの家庭で犬が大活躍しました。
筆者もかつて大型犬を飼っていた経験があり、日々の散歩や運動に多くの時間を費やしていました。しかし、都会のアパートで大型犬を飼うには限界があります。実際、筆者の愛犬は一度迷子になり、半年後にようやく戻ってきたというエピソードも。こうした経験を通じて、小型犬への関心が徐々に高まってきた背景があります。
小型犬の人気と公共交通機関での利便性
パリでは、小型犬が圧倒的に支持を集めています。バッグに入れて持ち運べる利便性に加え、公共交通機関でも無料または割引で利用できる点が魅力です。特に2016年以降、大型犬も条件付きで地下鉄に乗れるようになりましたが、やはり手軽さでは小型犬に軍配が上がります。
柴犬の登場と急速な広がり
ここ数年、パリの街を歩いていると、あちこちで見かけるのが柴犬です。独立心が強く、無駄吠えが少ないという性格がアパート暮らしにぴったりで、フランスでは柴犬の約80%がパリに住んでいるとされています。
ブリーダーのオードリー氏は、「サクラ・ケンシャ(桜犬舎)」という名の施設を設立。これは「桜」のような儚い美しさを持つ柴犬にふさわしい名前です。1936年に日本で天然記念物に指定されたこの犬種は、見た目の美しさだけでなく、活発で賢い性格でも愛されています。
柴犬を飼う理由──実際の声から
パリに住むある柴犬の飼い主は、自身の犬オコについて「非常に頭がよく、好きなおやつを報酬にすると様々なことを覚える」と話します。家では静かに過ごしつつ、外に出れば元気いっぱいに走り回るその性格が、多くのフランス人に支持される理由のひとつとなっています。
映画『HACHI』が導いた日本犬との出会い
さらに、映画『HACHI 約束の犬』をきっかけに柴犬に興味を持った人もいます。パリ在住の32歳のトニーさんは、恋人のキャシーさんとともにこの映画を見て感動し、日本犬に魅了されました。当初は秋田犬に惹かれたものの、当時の住居では大型犬は難しいと判断。代わりに柴犬について調べ、2012年に初めてアキミという柴犬を迎えることになります。
当時、フランスでは柴犬はまだ一般的ではなく、子犬の価格は2500ユーロにも上ったと言います。しかし、飼い主との出会いや情報収集を重ねた末、900ユーロでアキミを迎えることに成功しました。その後1年間、彼らはアキミをキャシーさんの家族に預け、外国での生活に旅立ちます。
柴犬ブームは今後も続くか
柴犬の人気は今後も続くと見られており、フランスにおける「和犬」ブームの象徴ともいえる存在になりつつあります。独立心がありながら飼いやすく、都会のライフスタイルにもマッチする柴犬は、今やパリで最も注目される犬種のひとつです。
フランス人の暮らしの中に日本の犬が自然に溶け込んでいく現象は、文化の交差点とも言えるパリならではの興味深い一面を映し出しています。柴犬の静かな人気は、これからも広がっていくことでしょう。